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問われる「就活」の在り方

2014年3月10日 08:25

 「今の就職活動は正常なのか」―ニコニコ動画などを展開する(株)ドワンゴが就活の在り方に一石を投じ、その後の同社と厚生労働省とのやり取りが話題となっている。
 焦点は、新卒入社試験における受験料徴収の是非。2,525円を新卒希望者に受験料として支払ってもらうことで、応募者を入口で絞り込み、人材の質を高めるのが同社の目的だ。これに厚労省が待ったをかけた形だが、果たしてドワンゴの取り組みは、どう評価されるべきか。

受験料制度をめぐる相克
 3日、ドワンゴは「『受験料制度に対する、厚労省から中止を求める行政指導』報道について」という見解をリリースした。それによれば、ドワンゴは今年1月中旬に厚労省から受験料制度に関してヒアリングを受け、2月中旬に同省から見解が出された。この結果について、一部報道が「ドワンゴが行政指導を受けた」と報道。これに対し、ドワンゴは「職業安定法第48条の2」に基づき、厚生労働省より来年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」を受けた、としている。

 厚労省によれば、「『就職』というフェーズにおいてお金を払える人だけが採用試験を受けられる状態になってしまうことを大変危惧して」おり、対するドワンゴは「現時点においても地方に在住する学生は交通費などの経費負担が大きいため、首都圏の学生と比較して金銭的な理由からも就職の機会を奪われている状況にある」と反論している。さらに、「入社採用試験に際して1人の受験生が100社以上もエントリーしている状況が正常であるとは言い難く、受験生、企業の双方にも大きな負荷がかかっている。こうした状況は解消すべき」―これが、今回ドワンゴが受験料制度を導入したきっかけだ。

エントリーって何?
 ドワンゴは、1人当たりのエントリー数が際限なく増加していることを疑問視している。
 大量エントリーに拍車をかけているのが、リクナビやマイナビといった求職サイトの「一括エントリー」ボタン。サイトで自分が希望する会社と同じような業種ないし業界に属する複数の企業に対し、ボタン一押しでプロフィールを送信できる。

 さらに、リクナビは今年から「オープンエントリーシート」というエントリーシート(ES)共通化サービスを開始。これも賛否両論で、「これまでは企業ごとに異なったESを作成していたが、その手間が省ける」というメリットが強調される一方、「とりあえずエントリーという応募がさらに増える」「応募が簡単になりすぎて自己分析しなくなる」といったデメリットが問題視された。

 筆者は、実はまともな就活をしたことがない。正直に言えば、就活で苦しんでいる同期生や先輩をはた目に見ているうち何となく「就活が怖い」と感じるようになり、就活を避けて大学院に進学した。その後は記者を目指して民間企業に就職することになるが、「厳密には新卒ではないし大手メディアは無理だろう」と決めつけ、ハローワークを利用して地元メディアに就職した。今はフリーライターだが、何とか専門職でメシは食えている。

 そんな経歴の筆者が、就活について意見するのもおこがましいが、「エントリーとは何ぞや」という疑問があった。マイナビによれば、「エントリー」とは「『その企業に興味がある』という意思表示をすること」という程度のものらしい。
 現在のエントリー制度、ひいては就活について議論百出なのは承知しているが、そもそもリクナビやマイナビといった求職サイトの存在が、就活の質を悪くしている「諸悪の根源」なのだろうか?

 こうしたサービスは、人々に望まれるから生まれ、望まれなければ自ずと消えていく。事実、ドワンゴ以外にもこうした求人方法を非効率だと考え、新たな手法を模索する動きも出ている。ある企業は、人事担当が自ら学生たちのもとへおもむき、少人数での飲み会を開催。胸襟を開いて意見交換する場を設けているという。そうした独自のスタイルで求人をする企業が増えそうな状況もあるが、かといって求職サイトがなくなることも当分は無いだろう。肝心なのは、学生が自分の望む企業に就職でき、企業が本当に望む人材を得られるかだ。ミスマッチに終わると、就活に費やされたエネルギーが無駄になってしまう。

就活をめぐる議論に欠けるもの
 求職サイト関係者に聞いたところ、たとえばAさんという1人の人間が「どのサイトを使って」「何社エントリーし」「何社面接して」「何社内定をもらい」「どの企業に就職し」「何年で離職したか」といったことを俯瞰できるデータは皆無だそうだ。つまり、数字データを用いた「一括エントリーが善か悪か」というはっきりした証明を、誰もできない状況なのだ。

 何とか就職できたら、採用できたら、はい終わり、ではない。その先、学生は何十年と社会人として働かなければならない。それに対して、企業は新卒採用に何を求めるのか―ポテンシャル採用なのか、即戦力採用なのか―をはっきり示していく必要があるだろう。

 今の就活をめぐる議論は、入社前の「入口」の話に終始しており、入社後の「中間」「出口」を含めたトータルな検証が完全に欠落している。そのことを求職サイト運営会社も、企業も、学生も認識できていないとすれば、それこそが大量エントリー者を量産する「諸悪の根源」であるように感じられてならない。

<嵯峨照雄>



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