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『明日、ママがいない』問題に欠如した「大人の身勝手さ」という視点

2014年2月 4日 07:30

イメージ 日本テレビは、現在放送中のドラマ「明日、ママがいない」について、「内容変更を検討する」という見解を1月30日発表した。
 このドラマは、児童養護施設を舞台に様々な家庭事情で施設に預けられた子どもたちが「里親探し」をする、という物語。芦田愛菜さんが演じる主人公ら子役の演技力には舌を巻くが、このドラマをめぐり、同じ境遇の人たちに与える影響が甚大だとして当事者団体から抗議が寄せられ、スポンサーが一斉に降板する事態に。
 2月3日には田村憲久厚生労働相が衆院予算委員会で、「児童養護施設の子どもに与えている影響を調査する」という方針を示した。
 このドラマを続けるべきか否か―そうした議論ばかりが交わされているが、より大切な視点が欠けてはいないだろうか。

子どもの「自傷行為」報告も
 そもそも「明日、ママがいない」の何が問題だったのか、簡単に整理しておこう。
 家庭の事情で赤ちゃんを養育できなくなった親が、匿名で養子に出すための施設というのが現実にある。通称「赤ちゃんポスト」だ。もともとは海外で始まったようだが、日本では熊本県の医療法人聖粒会 慈恵病院が唯一「こうのとりのゆりかご」という名称でこのシステムを取り入れている。

 今回抗議の声をあげたのは、この慈恵病院と全国児童養護施設協議会(東京。以下、全養協)の2団体。彼らがとくに問題視したのは、子役があだ名で呼ばれる点、施設の子どもたちがペット扱いされる点だ。

 主人公は赤ちゃんポストに預けられていたから「ポスト」、第1話で入所した子どもはシングルマザーの母親が恋人の男性を鈍器で殴ったから「ドンキ」など、かなりセンセーショナルなあだ名が付けられている。また、施設長が子どもらを「ペットショップのイヌだ」と叱咤する場面がある。

 ドラマの中での子どもらは、そんな境遇を理解しているのだが、現実はそうはいかないというのが当事者団体の主張だ。慈恵病院は問題点の詳細についてホームページ内で公表。全養協も「実際に子どもが自傷行為に及んだ」「学校で同級生からポストと呼ばれるような事態が発生した」という具体的なアンケート結果を提示。さらに踏み込んだ議論を展開した。

 今回とくに厚労省が問題視したのは、この「自傷行為」の部分。これが事実であった場合の処遇については今のところ明言してないが、何らかのかたちで行政指導に発展する可能性が出てきた。

スポンサーは「関知しない」で済まされるか
 このドラマには8社のスポンサーがついていた。第3話目になるとCMがいっせいにACジャパンのものに差し替えられ、「東日本大震災以来の自粛ムード」という評判がネット上で駆けめぐっている。

 そもそもスポンサーの今回の対応に問題はなかったのか。「児童養護施設のことを描いたストーリー」「子どもがあだ名で呼ばれること」という内容を事前に知っていたか、スポンサーの1社である花王の広報担当者に聞いたところ「メディアの方なのでご存じだと思いますが」と前置きした上で「スポンサーは基本的に番組内容には関知いたしません」との回答。
 一方、日本テレビ広報担当者に同じことを聞くと「スポンサーに関しては個別の契約内容に関わるので、事前に内容を知らせていたかどうかに関してはお答えできません」という回答だった。

 あるテレビ関係者は「普通、CM枠は広告代理店が1クールや年間で契約をとってくる。だからスポンサーが内容を把握して口を出すことはあまりない。今回の件は日本テレビ側の説明不足だったと思う」という。どうやらテレビ業界では「スポンサーは内容に関知しない。問題があれば降板する」というのが通例のようだ。ただ、それは業界の話であって、一般視聴者はそんな事情はよく分からない。

 厚労省まで乗り出す問題に発展した今、もはや「関知しない」では済まされない。8社共同でも構わないから、「なぜ降板という判断を下したのか」という声明を出すべきだ。そうでなければ、業界の慣習など知らない視聴者に「テレビ番組はスポンサーの判断で簡単に打ち切りできるのだ」という印象を与えてしまうことになりかねない。それはスポンサーにとってもテレビ局にとっても、マイナスにしかならないのではないだろうか。

問われるべきは・・・
 日本テレビは「内容は変更する」としており、打ち切りは予定していない。果たして、このドラマを続けるべきなのか。

 参考データとして「Yahoo!意識調査」による「ドラマ『明日、ママがいない』の放送、中止すべき?」という項目の投票結果を見てみた(2月3日午後10時現在)。総票39万3,885票のうち「放送を続けるべき」が21万7,417票、「放送を中止すべき」が13万9,581票、「どちらでもない/わからない」が3万6,887票と、「続けるべき」という意見が多いものの視聴者の間でも見解が割れている。

 当事者団体からの声明は非常に貴重な意見だ。テレビ局はそれを十分に斟酌しなければならない。筆者はドラマを3話分すべて見た。その上で感じたことは、ここに展開されているのは「親に捨てられた子どもたちの苦労話」などではなく、その子どもたちを「我が身可愛さに振り回す大人の身勝手さ」だ。ドラマで「子どもには親を選ぶ権利がない」というセリフが出てくる。その通りだ。この問題を子どもの視点でえぐりだそうと試みたのは、「明日、ママがいない」の画期的な点だ。当事者団体の意見もよく分かるが、そこまで覚悟を持って抗議するなら、やはり子を捨てるような親が現実にいるという時代背景と、なぜその問題が解消しないのかというところまで踏み込んだ議論をお互いすべきではないか。

 もう1つ気になることがある。夜10時という放送時間帯にも関わらず、なぜ子どもに影響が出るのかという点だ。「そもそも子どもが見る時間の番組じゃないよね」とは、子を持つ母親の意見。それもごもっともで、誤解を恐れず言うなら、そんな時間に子どもにテレビを見せている大人にも問題があるのではないか。ここにもある種の身勝手さを感じる。

 今は議論がどうも「子どもの人権」に集中し過ぎているきらいがある。それも大事なことだが、本当に問われるべきは、「子を平気で捨てる親の身勝手さ」ひいては「大人の身勝手さ」なのだ。

<嵯峨 照雄>



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