使いたいけど現物がない―これではユーザーが増えるはずもない。ソフトバンク、KDDI に流れた顧客奪回の切り札として悲願のiPhone投入を実現したNTTドコモだったが、人気機種の在庫不足などが響き、目的達成どころか、自社のユーザーを大きく減らす事態となっている。
番号持ち運び制度(「モバイルナンバーポータビリティー」・MNP)を利用した9月の契約者の転出入では、ドコモが13万件超の顧客流出。一方、「au」を展開するKDDIには10万件を超す転入があったとされる。ソフトバンクも転入増だ。
企業の勝ち負けに興味はないが、ドコモとiPhoneを製造するアップル社には、「無責任じゃないか」と文句のひとつも言いたくなった。
iPhone欲しい
記者は「新発売」や「期間限定」という言葉に弱い。長年ドコモの携帯を愛用してきたが、ついにiPhone投入とのドコモの発表を聞いて、バンザイしたのは言うまでもない。
「欲しい!」。早速、近くのドコモショップでiPhone5Sのゴールドを予約。「いつごろ入荷しますか?」と聞いたところ、店員さんからは信じられない答えが返ってきた。「いやー、いつになるか・・・。なんせゴールドは1台も入荷してませんから・・・・」。
“オー、マイゴッド!入荷の予定もないのに、予約させるのか!初めから一台もない???”。
この日から県内のドコモショップを訪ね歩き、「iPhone5Sのゴールドはいつ頃入りますか」と繰り返す毎日。驚いたことに、いずれのドコモショップも異口同音に「どうなるか分かりません」。ひどいのは、発売初日から憧れのゴールドがほとんど入荷していないショップが少なくないということだ。“一体全体どうなってるんだ!”。叫びたい気持ちを抑えてドコモの本社に話を聞くことにした。
ドコモもアップルも「分からない」
ところが、ドコモ本社の対応もショップと同じ。「こちらでは、いつ製品が入荷するのかなどの詳しい情報を把握しておりません」。どのくらい待てばゴールドが手に入るのか聞いてみたが、はっきりとした回答はなかった。なぜこうした事態になったのか、ショップはもちろん、本社さえ説明できない。ばかにするにもほどがある。
ならば、iPhoneを世に送り出したアップル社に確認するしかない。手始めに同社の製品を展示・販売するアップルストアで話を聞いてみたところ、ほかの機種(iPhone5C、5Sブラック)はあるが、人気の5Sシルバーやゴールドはいつ入荷するか分からないという。人気機種が何台くらい入荷したのかについては「お答えできないことになってます」。“なんてこった!ゴールドは本当にあるのか?”
それならアップルの本社に聞くしかない。きっと供給の見通しは立っているに違いない。が、インターネットを開いて電話番号を調べようとしたところ、オール英文でギブアップ。泣く泣く追跡を断念した。
どこにもない!
いや待てよ。iPhoneは欲しい。今すぐ欲しい。こうなったら長年付き合ってきたドコモを見限り、他社へ乗り換える手もある。購入を煽っておいて、「製品はありません。いつ来るかも分かりません」では詐欺じゃないか。相思相愛もこれまでだ。同じiPhoneはドコモと競合する2社も売っている。よし、とばかりauとソフトバンクをハシゴすることにした。
結論から言って、auも失格。こちらも「いつ入荷するか分からない」。かろうじてソフトバンクだけが、現状について少しマシな説明をしてくれた。対応した店員さんの話はこうだ。「製品入荷の時期について、ハッキリしたことは申せません。とくにゴールドタイプのものは、現在、この店だけで150人の予約のお客様が入荷待ちの状況です。ただ、発売以来、ご希望の機種はほとんど入荷していません」。“ああ、聞かなきゃよかった”。これでは何ヶ月先になるのかさえ分からない。iPhoneについては一番実績のあるソフトバンクでさえ、こんな状況なのである。
ドコモ、au(KDDI)、ソフトバンク、携帯3社による販売合戦やその勝ち負けについての報道が氾濫している。しかし、商品の製造元でさえ供給時期を見通せない事態について、厳しく批判する記事は少ない。「見通しが甘かった」では済まない話ではないか。一庶民としては、“どうしてくれる私のiPhone!”なのだ。