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映画『日本で一番悪い奴ら』のモデルが語る警察不祥事の実態

2018年10月24日 07:35

稲葉さん3.jpg 全国で警察の不祥事が止まらない。毎月のように現職警官の犯罪が報じられ、懲戒処分となるケースばかり。福岡県警では昨年1年間に、全国最多の処分者を出している。
 北海道も同じ状況だ。今年7月に機動隊の巡査長(当時、以下同)による重傷ひき逃げ事件が報じられたのを皮切りに、翌8月には女児相手の連続公然わいせつで苫小牧署の巡査部長が逮捕・送検、10月に入ってからは札幌中央署で薬物捜査にあたっていた巡査部長が覚醒剤所持で逮捕され、その2日後には交通捜査で架空の情報を報告書に記した巡査部長など2人が懲戒処分を受けた。
 僅か4カ月間で5人が犯罪や不正に手を染め、うち3人が容疑者として捜査の対象になる組織。民間企業ならば社の存続を問われる事態だが、警察の場合は事情が異なるようだ。映画『日本で一番悪い奴ら』の主人公として知られる北海道警の元警部・稲葉圭昭(いなば よしあき)氏(65)は、昨今の警察をどう見ているのか――。(写真が、稲葉圭昭元警部)

■映画になった「稲葉事件」の元警部
稲葉さん1.JPG かつて大きな不祥事を起こして職場を去った1人は、今日の腐敗をどう見るのか。いわゆる「稲葉事件」で失職後、自著『恥さらし』(講談社)で組織ぐるみの不正を暴き、同書を原作とした映画『日本で一番悪い奴ら』の主人公として知られる北海道警の元警部・稲葉圭昭氏。現職時代、長く銃器捜査にあたっていた稲葉さんは、拳銃摘発のため暴力団などから銃を仕入れ、自作自演の押収を繰り返した。エース刑事と持ちあげられ、実績を求められ続けた結果、違法捜査はエスカレート。結果、暴力団との裏取引に失敗して大量の薬物を密輸させた事件などを機に、閑職に追いやられて自暴自棄となり、覚醒剤使用などで逮捕、実刑判決を受けた。古巣を離れて20年ほどが経った今は、当時の「洗脳」が解け、少し引いた目線で組織を見ることができるようになったという。その目に映るのは何か、改めて語ってもらおう。

■洗脳、勘違いから不正へ

 私自身がそうでしたが、とくに若手の警察官には何か勘違いしている人間が多いと思います。警察学校を出た途端、制服を着て拳銃ぶら下げて、「おれは警察だ、お前らとは違うんだ」と上から目線になる。年齢で言えば、まだまだ子供ですよ。それが権力を笠に着て、人よりも偉いと勘違いする。

 警察学校の初任科生だったころ、初任部長が担当する「訓育」の授業で、いきなり訊かれたことがあります。「稲葉、仮にお前が泳げなかったとする。目の前に川があって、そこで溺れてる人がいたら、どうする? 泳げないという前提で答えてみろ」と。その時、私はとっさに「飛び込みます」と即答しました。後日、その授業の成績が発表された時、私は満点になっていたんです。つまり警察官というのは、溺れている人がいたら何も考えず水に飛び込まなくてはいけない。刃物を持って暴れている奴がいたら、自分が飛びかかって捕まえないといけない。「お前らは警察の看板を背負ってるんだ、一般人とは違うんだ」というわけです。そういう教育を通じて、警察官というのは特別な仕事なんだ、聖職なんだと思いこませる。言ってみれば洗脳です。

 学校時代の教育に限らず、全体的に精神論的な考え方に支配されている世界。警察の不祥事が頻発したり、またそれを隠蔽したりということが続くのは、皆がこの「警察は聖職」という考え方に病的に支配されているからじゃないでしょうか。聖職者が不正などするはずがない、という。ただ、不祥事の種類というか、性質みたいなものはずいぶん変わってきたと感じます。私が現役のころは、だいたい「実績を挙げたくて」とか「私生活でハメを外し過ぎて」といった理由で不正や失敗をするケースがほとんどでした。

 前者でいうと、たとえば調書の偽造。私がよくやったのは、裁判所に捜索差押許可状を出してもらうための、いわゆる「入りガサ調書」の捏造です。架空の情報提供者をでっち上げ、部下の警察官に適当に署名・指印をさせ、嘘八百のそれらしい情報を書く。どこそこに覚醒剤を10グラム持ってる奴がいるのを見た、とか。ガサ状さえ出てしまえば、別にその件でなくても捜査できますから。踏み込んだ結果「調書の件は解決できなかったけど、その場所で20グラム見つかったので逮捕した」でOKです。私の場合は拳銃の捜査でずいぶん架空の調書をつくりましたが、上は知っていたはずですよ。そもそも上から「あと1丁なんとかならんか」と言われて、ヤラセの押収を続けていたわけなので。

 後者の私生活上の不祥事では、ありがちなのは飲み過ぎて失敗したという話。調子に乗って人前で服を脱いだとか、タクシーの運転手さんを殴っちゃったとか、だいたいそんなのが年に1、2件ありました。職場内では、今でいうパワハラのようなこともよくありましたが、そもそも警察の体質がタテ社会、体育会系なので、学校の先輩のシゴキみたいに受け止めていましたね。今のような陰湿ないじめは、20年ぐらい前はなかったと思います。

■不祥事続出の背景に警察官のレベル低下

 今年になってから報道された不祥事を見てみると、あきらかに昔と違うのがわかります。子供相手の公然わいせつなんて、かつてならまずあり得なかった。ひき逃げの警察官にしても、人をはねたことに気づかなかったという供述には驚きです。車を運転する人ならわかると思いますが、石ころを踏んだ程度だって運転手は気づきますよ。その警察官は「気づかなかった」で通ると思っていたんでしょうけど、普通の人ならそんなこと考えません。

 公然わいせつの警察官も、真っ昼間の住宅街で大胆な犯行を続けたという時点で、ちょっとおかしい。言い方は悪いですが、普通のわいせつ犯ならもっと上手にやるでしょう、バレないように知恵を絞って。彼らは、捕まらないと思っているんだろうか。嘘をついてもバレないと思っているんだろうか。だとすれば、それもまた洗脳の結果なのかもしれません。

 先日起きたばかりの覚醒剤所持も不思議な事件です。私自身が覚醒剤で捕まったのは、組織ぐるみの違法捜査に手を染め、捜査費を捻出するために薬物密売などを続けた結果ですが、今回のケースは単純に「やってみたかったから」手を出したという。そんな事件、昔はありませんでした。これは世代というか、時代の違いなのかもしれないですね。世の中全体で変な事件が増えれば、警察にも変な奴が出てくる。そう考えないと理解できません。

 不祥事が起きてから逮捕や処分までに時間がかかっているのも、不祥事そのものと同じぐらい大きな問題です。原因は、捜査能力の低下でしょう。ちょっと前までは、たとえば暴力団同士の抗争なんかがあった時、「あの人に訊けば事情はだいたいわかる」と言われた刑事がいたものです。普段から足を使って情報を集めているから、背景を熟知しているんですね。今はおそらく、足で稼ぐ捜査なんてほとんどやっていないから、防犯カメラやスマホ、ドライブレコーダーなどがなくなったらお手上げなんじゃないですか。

 同じ町内で繰り返されたという公然わいせつを2年間も解決できなかったということは、たぶん「密行」もやっていませんね。狭い地域で似たような犯罪が続いていたわけですから、捕まえるには現場で根気よく張り込みを続けるしかない。それをやらずに手をこまねいていたのだとしたら、力がないと言われても仕方ありません。また今回の場合、当事者の父親が幹部警察官だったわけですよね。日頃から接している親が息子の異変にまったく気づかないというのも、おかしな話。長いこと実家で一緒に過ごしていれば、何か肌で感じるものがあったはずです。

■警察の実態

 最近は若手の離職率も多いそうですね。同期の1割ぐらいが若いうちに辞めてしまうという話が本当なら、それもずいぶん昔と違う。私の同期は40人ほどいましたが、おそらく私以外は全員、定年まで勤め上げているはずですよ。何というか、「男子一生の仕事」みたいな風潮があったので、よほどのことがない限り転職は考えられなかった。で、みんなある程度偉くなると、先が読めてきますよね。そうなると、まさに先のことしか考えられなくなる。最終的には、自分のことばかり考える人しか生き残れない組織。これは断言できます。

 それを考えると、警察不祥事は今後もなくならないと思います。不祥事の隠蔽もなくならない。あるマスコミが、不正の隠蔽を「組織防衛」であるかのように書いていましたが、それは違いますね。幹部などの責任者は、誰も組織のことなんて考えていませんよ。守りたいのは、組織ではなくて自分。自己保身です。この自己保身の体質だけは、昔も今も変わっていません。そして今後は、この傾向がさらに強くなっていくと思います。

 何か大きな問題が起きたら、まず隠す。隠しきれなかったら、形だけの謝罪をする。幹部は再発防止を謳いながら、責任逃れの方法を考え、自分が次のポストに移るまでの時間をやり過ごすことに心を砕く。その繰り返しが続いていくだけなんだと思います。

稲葉さん2.JPG【稲葉圭昭氏 プロフィール】
・1953年10月、北海道生まれ。76年、北海道警採用。本部機動捜査隊、札幌中央署刑事2課などを経て、93年から銃器捜査に携わる。拳銃摘発のための違法捜査に関わり、2002年に覚醒剤使用などで逮捕、免職。実刑判決を受けて服役し、11年9月に刑期満了。現在、いなば探偵事務所( http://inaba-tantei.com/ )代表。著書に『恥さらし――北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)、『警察と暴力団 癒着の構造』(双葉新書)がある。札幌市在住。



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