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原発事故出動 命じられる運転手は低賃金で生活苦 
原発事故インチキ避難計画と鹿児島市のバス事情(中)

2016年3月 8日 09:00

 市バス.jpg鹿児島県で川内原子力発電所(薩摩川内市)の過酷事故が起きた場合、緊急輸送に従事することになる唯一のバスが鹿児島市交通局の市バス。「運転手は公務員であるから当然」とする鹿児島市だが、市バスの運営実態を取材してみると、「はい、そうですか」とは言えない運転手側の事情が浮き彫りとなる。
 今年1月に長野県軽井沢町で起きたスキーツアーバスの事故以来、続発するバス事故。背景にあるのは、過酷な勤務体制下、低賃金でハンドルを握らざるを得ない運転手たちの惨状だ。じつは、原発事故で出動を強制される鹿児島市交通局所属の運転手たちも、不当な待遇の中で、“市民の足”を守り続けていた。

原発事故緊急輸送 乗務員は「初めて聞いた」
 鹿児島市交通局の説明によれば、保有する市バスは204台。一部のバス路線を民間事業者である南国交通に業務委託していることから、「公務員運転手」の数はバスの台数以下で153人。うち59人が嘱託=非正規で、2人が再任用、残る92人が正規の公務員として運転業務に就いているのだという。(下の写真は、鹿児島市交通局の市バス)

画像1.jpg

 問題は、災害時の緊急輸送で、非正規職員を使えないこと。市交通局は、原発事故時の緊急輸送には「正規の公務員しか使わない」と明言しており、万が一の時の乗務員は、92人の中から選ばざるを得ない状況なのだ。

 報じてきた通り、民間バス事業者の運転手は、バス協定によって逆に守られる立場。運転手が浴びると予想される放射線量が「1ミリシーベルト以下」の場合にのみ出動要請が来るというのだから、原発の過酷事故でハンドルを握ることはまず考えられない。市バスの非正規職員は、公務員ではあるが「特別職」。正規の職員ではないため、危険な仕事をやらせるわけにはいかないということだろう。

 それでは、正規の公務員である市バスの乗務員は、原発事故の時、緊急輸送に従事するよう命令されることを知っているのだろうか?念のため、業務を終えた何人かの乗務員に話を聞いてみたが、一様に驚きの表情。「初めて聞いた」「聞いたことがない」「ひょっとしたらとは思っていたが、(交通局から)正式な話はない」「何も聞かされていない」といった反応ばかりだ。現場の市バス乗務員たちの大半は、災害避難についての詳細を聞かされていない。

 鹿児島市が、川内原発から概ね30キロ圏内にあたる郡山地区を対象とした「鹿児島市原子力災害対策避難計画」を策定したのが平成25年11月。以来、今日に至るまで、市が市バスの乗務員に具体的な避難業務について説明したことはないのだという。

 ちなみに、問題のバス協定には≪放射性物質の大量の放出により生じる被害が発生し、又は発生するおそれがある場合においては、その特殊性に鑑み、放射線防護措置等の安全対策を行うものとする≫という一項がある。県原子力安全対策課によれば、防護措置とは主としてポケット線量計で、あとは簡易的な防護服であるタイベックス程度。鹿児島市にもポケット線量計120台、タイベックス400着が県から支給されているというが(市側の説明)、大半の市バス乗務員は、現物を見たことさえないという。

鹿児島市交通局の歪んだ賃金格差
 なぜ鹿児島市は、原発避難計画の実働部隊に説明を怠ってきたのか?――緊急輸送出動が「2台」に過ぎないという甘い考えが原因だと見ることも可能だが、市当局が市バス乗務員に原発避難時の説明ができない理由は別にある。一般職とバス乗務員との賃金格差だ。

 下は、鹿児島市交通局の市バス正規乗務員と事務系一般職の基本給比較である。(数字は、鹿児島市交通局の回答による)
鹿児島市2.jpg

 事務職の基本給が32万円であるのに対し、バスの正規乗務員は同じ公務員でありながら22万2,000円。はじめから10万円もの差があるのだ。バス乗務員の場合、各種手当を加えて34万円の平均給与になるというが、税金やら何やらを差し引かれると、手取り20万を切るのが実情。一方、事務職の手当を含めた平均給与は43万円。なんと、国家公務員の平均給与より高い数字となっている。非正規乗務員はさらに悲惨で、時給1,360円の週40時間乗車。給与は20万を超える計算だが手当はもらえず、税引きの手取り額は10万円台にしかならない。

 高給取りの事務職が、低賃金のバスの乗務員に「原発で事故が起きたから緊急輸送にあたれ」と命令するのだから、理不尽と言うしかあるまい。原発事故の避難計画について聞いた折、市危機管理課も交通局も「(出動は)公務員だから当然」と明言した。はたして、彼ら事務職に、そう言い切る資格があるのだろうか。

 あるバスの乗務員は、次のように話している。

――私たち市バスの運転手は、事務職との賃金格差について、長いこと是正を求めてきました。正直、手取り10万円台では生活も楽ではありません。格差というより差別でしょう。ですが、市民の足を守るという使命感は、失ったことがありません。それが誇りですから。
 原発事故の避難計画でバス協定が結ばれたという報道を見た時、私たち鹿児島市交通局も当然その協定に参加しているものとばかり思っていました。交通局も県のバス協会に加盟しているからです。しかし、実際には交通局は協定不参加。私たちには、『公務員だから行ってこい』と言うわけですね。『(事務職に対し)運転手の給料がいくらか知っているのか?』。そう聞いてやりたい心境です。

問われる鹿児島市の姿勢
 鹿児島市が、バス乗務員に災害時緊急輸送についての説明を怠ってきたのは、怠慢ではなく意図的。乗務員手配について聞いたHUNTERの記者に対し、交通局側は「組合との調整」を口に出している。運転手の安全確保という問題もあるが、動きを鈍らせている最大の要因は過大な賃金格差だろう。

 公務員が特別な待遇で守られてきたのは、彼らが公に尽くす存在であるから。ならば、災害派遣に従事する「公務員運転手」には、それなりの待遇を保証するのが当然だ。放射性物質が降り注ぐ中に飛び込めというのなら、まずそうできる態勢を整えるのが先。賃金格差を放置したまま、人権にかかわる命令を下すことなどできまい。鹿児島市は、現実と計画の差を埋める努力をすべきであろう。

 ところで、原発事故での市バス出動にあたり「非正規は使わない」と断言した鹿児島市だが、これまた怪しい約束であることも明らかとなっている。詳細は次稿で――。

 



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