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佐賀県立高パソコン購入義務化 新入生家庭の2割が「借金」

2015年2月12日 08:45

タブレットPC 昨年1月、佐賀県が進める「先進的ICT利活用教育推進事業」についての問題点をシリーズで報じた。同事業は、平成26年度に入学する全県立高校の新入生全員にパソコンを購入させ、授業に生かそうという試み。事業開始までの過程を調べたところ、実証調査段階ではパソコン利用によって成績が向上したかどうかを示すデータがとられておらず、はじめにパソコンありきで始まった形。機材(パソコン)納入業者の選定は、「一者応札」という不明朗な形となっていた。パソコンの画面が発する「ブルーライト」と 呼ばれる健康に影響を与える光についても、対策は何も講じられていない。
 最大の問題は、パソコンを購入しなければ入学させないという佐賀県の姿勢。購入義務化に批判が出たため、県は貸付制度を用意して保護者に理解を求めるとしていたが、その結果どうなったのか――。1年経っての現状を、改めて取材した。

高校入学にパソコン購入を義務づけ 
 一昨年12月の佐賀県議会。高校新入学生徒へのパソコン購入義務化にについて質問された県教育長は、「(パソコンを)購入しない生徒は校長判断で入学を保留することもあり得る」との見解を示した。これに対し、事業に対する疑問や批判の声があがったのは言うまでもない。「貧乏人には進学の機会を与えないということなのでしょうか」―母子家庭だという母親の、こうした切ない声も聞いた。

 佐賀県側は「パソコン購入は義務ではない」と弁明したが、同県の「平成26年度佐賀県立高等学校入学者選抜実施要項」には、『学習者端末の購入について』として、次のように明記されていた。

≪平成26年度からは、全県立高校で学習者用端末(情報端末にデジタル教材をインストールしたもの)を利活用した学習活動を導入するため、合格者は、各高等学校へ入学するに当たり、県教育委員会が指定した学習者用端末を購入する必要がある。詳細については、別途通知する。≫(下が「要項」。赤い囲みはHUNTER編集部)

平成26年度佐賀県立高等学校入学者選抜実施要項  学習者端末の購入について

 ≪入学するに当たり、県教育委員会が指定した学習者用端末を購入する必要がある≫との記述は、どう見てもパソコン購入を『義務』として定めたもの。買わなければ入学させないということだ。これに対し、県教委は「教育委員会といたしましては、必要な資金を確実に準備し、そうした事態に至らないよう、保護者にはしっかりと説明し、理解と納得を得られるよう務めることが重要だと考えております」として、貸付制度を用意する意向を示していた。“借金してでもパソコンを買え”ということだ。 

新入生家庭の2割が借金 
 パソコン購入費用は教材ソフト込みで約8万5,000円。5万円を保護者が負担し、残りを補助金(つまり税金)で賄う仕組みになっている。5万円の負担が難しい保護者のために、佐賀県が用意したのは『佐賀県学習者用パソコン購入費貸付金』と県の育英資金制度。前者は、保護者が5万円を借り入れ、入学年の7月から毎月2,000円づつを返済するというもの。後者は、借りた育英資金を卒業後に分割もしくは一括で返済する制度だ。暮らしを切り詰めて進学費用を貯えてきた保護者にとっては、追加の5万円が重くのしかかる。それでも進学はさせたい……。やむなく借金をした保護者はどのくらいいたのか、県教委への情報公開請求で確認した。

 下は、開示された「佐賀県学習者用パソコン購入費貸付金」の利用状況と、佐賀県育英資金の支払い実績。貸付金利用者は人数、育英資金の方は支払額(①と②)を赤いアンダーラインで示した。

佐賀県学習者用パソコン購入費貸付金

 パソコンを購入した新入学生徒は、6,579人(中途編入を含む)。このうち、5万円を借り入れた保護者の数は1,387人にのぼっていた。内訳は、「佐賀県学習者用パソコン購入費貸付金」の利用者が855人(4,275万円)。佐賀県育英資金利用が534人(2,670万円)。なんと、新入生家庭の2割以上に借金を負わせた形だ。計画に無理があったと見るのが普通だろう。

 こうまでしてパソコンを授業に取り入れる必要があったのか?――その答えを見つけるため、「先進的ICT利活用教育推進事業」について、情報公開請求によって入手した文書の精査や現場への取材を続けた。

(以下次稿)



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