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佐賀県立高パソコン授業の惨状(上) ― トラブル続出で授業は停滞

2015年2月23日 08:35

タブレットPC 「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として、県立高校の新入生全員に約8万5,000円パソコンを購入させ、助成額を除いた5万円を保護者負担にした佐賀県。6,579人(中途編入を含む)の新入生家庭のうち、県が用意した借入れ制度を利用した保護者の数は総数の2割を超える1,387人にのぼっていた。
 「(パソコンを購入しなければ)入学を保留する」(県教委の議会答弁)――事実上の強要の裏には、パソコン納入や事業展開のための業務委託をめぐって、県教委と特定業者との間に癒着の影がチラついていた。
 それでは、肝心のパソコン授業の現場はどうなっているのか――。県教委への情報公開請求で入手した資料によって確認したところ、まさに生徒を置き去りにした「惨状」としか言いようのない実態が浮き彫りとなった。(写真:佐賀県が導入したパソコン)

トラブル続きで授業にならず
 佐賀県の県立高校は36校。平成26年度の新入生は6,579人だ。パソコン納入を一括受注した「学映システム」(佐賀市)は、学習用パソコン6,579台、約5億6,000万円を売り上げたほか、授業用パソコンを使用するにあたって発生するトラブルへの対応及びセキュリティ管理などを行う「佐賀県学習用PC等管理・運用業務」を契約金額8,726万4,000円で請け負っていた。

 この業務委託契約に従って、学映システムは毎月1回、月ごとの実績報告を行っている。下は、佐賀県教委が開示した平成26年4月から10月までの同報告書をもとに、県立校に導入されたパソコンに関する「問合せ件数」と、問合せに対する処理がどれだけ済んだかを示す「完了率」、どのような対応で完了したかを示すレベルのうち、「レベル3」と「レベル2」について一覧表にまとめた。「完了レベル」については、後述する。

問い合わせ件数

 問合せの内容は、パソコン本体の不具合、故障といったハード関連と、教材のインストール、ネットワーク接続等々のソフトに関連するものの二つに大別される。上掲の表には、問合せ件数の下にハード関連の相談件数のみをを明示したが、それ以外は大抵ソフトに関するものだ。

 問合せ件数は、パソコン授業が開始された4月に655件を数え、5月も同規模の607件。6月から530件⇒390件(7月)⇒290件(8月)と減少した後、夏休み明けの9月から急激に増加し、524件(8月)⇒674件(10月)と増え続けていた。

 5月、6月の問合せで多数を占めたのは、教材のインストールができないといった初歩的なトラブル。新入生が購入したパソコンに必要とされる教材ソフトのインストールができず、授業での使用が不可能となる状況が相次いでいた。

 混乱が続いたことは、問合せに対する完了率が、4月:74.2%、5月:49.75%、6月:77.36%、7月:75.9%と推移していることでも分かる。100%に満たない分は、つまり「積み残し」。解決できずに、翌月まで引きずったということだ。授業への悪影響はもちろん、パソコン導入が拙速であったことを物語っている。

 問合せのうち、ハード――すなわちパソコン本体の故障・不具合が驚くべき高率で起きていることも明らかだ。4月はデータがなかったが、5月から毎月200~400件。夏休み中に減ったのはわかるが、9月になって急増。10月には512件を記録していた(下は報告書の一部)。

報告書の一部

 夏以降は、ソフト関連ではなく、パソコン本体に多数のトラブルが起きたことを示している。使い込むうちに、機材(タブレット型パソコン「ARROWS Tab Q584/H」)の脆弱性が高まったと見られ、平成27年度は別の機種に変更されるという。これでは何のために億単位の県費をかけ実証研究を行っていたのかわからない。無責任極まりない話である。

問題解決「先送り」 ― 不良品の証明
 学映システムが提出した報告書では、問合せに対する対応の進行度を「完了率」で表している。下は、学映システムの報告書にある対応処理についての「レベル」の説明。レベル0からレベル3まで4段階ある。完全に問題が解決したのがレベル0だ。

「レベル」の説明

 レベル0は『問題が解決され完了』だが、これ以外のレベルは、応急的な措置で問題解決を先送りしているだけ。レベル1は『ユーザーは、代替機、もしくは代替措置で一時的に問題を解決できている。解決策がわかり、実施中であるが完了までに時間がかかる』。レベル2は『ユーザーは、代替機、もしくは代替措置で一時的に問題を解決できている。解決策がわかっていない為、根本的な改善には至っていない』。レベル3は『一次切り分けを行い、障害の原因を特定できたが、一次対応で解決できなかった。代替機の手配、もしくは導入業者へのエスカレーションする』。

 レベル1とレベル2は、はっきりと『一時的に問題を解決』と記し、それぞれ『完了までに時間がかかる』、『解決策がわかっていない為、根本的な改善には至っていない』としている。つまりは「先送り」。一般社会の常識では、レベル2の段階で返品が可能というべきだろう。レベル3――業界用語を並べているが、要は販売代理店(学映システム)では対応不能で、メーカーに任せるということ。“お手上げ”の状態だった。

 レベル1~3が、問題先送りの対応だったことは述べてきた通り。この場合は、ユーザーである生徒の一部が、一定期間、購入したパソコンを使えなかったということになる。報告書にある各種の数字を見る限り、そうしたケースが起きた頻度は、一般的なパソコンや家電品のクレーム数に比して、とてつもなく高い。とくに、上掲の表に入れたレべル2、レベル3の数字は、どう見ても異常だ。導入されたパソコンに「不良品」の烙印を押されてもおかしくない実態となっていた。

完了率で数字操作 
 「完了率」の数字に関しては、「先進的ICT利活用教育推進事業」の胡散臭さを象徴するような、勝手な数字操作も行われていた。9月、10月の完了率の数字を上げるため、問題を先送りしたレベル1とレベル2も、「完了」の中に入れているのだ。レベル0だけを本来の「完了」とみなし計算し直すと、両月の「完了率」は次のようになる。

・9月 レベル0=315件 完了率60% (報告書では82.06%)
・10月 レベル0=366件 完了率56% (同91.1%)

 パソコン本体の故障・不具合が大量発生した9月、10月の対応実態をごまかすためにやったのか、あるいは別の意図があるのか――いずれにせよ、パソコン授業の現場で、大変な事態が起きていたことは明らかである。県教委の暴走ともいえるパソコン授業の導入によって不利益をこうむったのは生徒、そしてパソコン購入を強要された生徒の保護者である。

 それでは、県教委の暴走によって不良品を押し付けられた生徒や教員は、パソコン授業とどう向き合ってきたのだろう。開示された文書や取材によって、これ以上続けていはならない「先進的ICT利活用教育推進事業」のとんでもない実態が明らかとなる。

(以下次稿)



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